先日読み終えた「南方熊楠と宮沢賢治 日本的スピリチュアリティの系譜」の妖怪学がテーマで書かれている章で、「グスコーブドリの伝記」の前身となった「ペンネンネンネン・ネネムの伝記」が取り上げられていました。
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本を読み終えたタイミングで、プライムビデオのおすすめ作品になぜか「グスコーブドリの伝記」が表示されたので、これは観ろということだなと思って観てみることに。
宮沢賢治は、ばけものの主人公を描いた前身である「ペンネンネンネン・ネネムの伝記」を10年かけて作り替え、人間が主人公の「グスコーブドリの伝記」を成立させたそうです。(映画は疑似化した猫で制作されています。)
映画は、二つの物語を混ぜ合わせたような構成となっていました。
「グスコーブドリの伝記」は、宮沢賢治の代表的な童話作品であり、生前に発表された数少ない作品の一つでもある。
宮沢賢治は、1896年の東北大震災の年に生まれ、1933年の東北大震災の年に亡くなっています。
37年という短い人生の中で震災だけでなく冷害や飢饉も経験し、まるで自然の厳しい側面を集中的に体験するために生まれてきたかのように思われますが、自然の美しさや豊かさもしっかりと享受していたのだなというのが、グスコーブドリが木こりの息子として生まれ育ったイーハトーブの森の描写を見ていて感じ取れます。
グスコーブドリは、冷害による飢饉で両親を亡くして妹とも生き別れてから工場で働き、その後農業に携わり、そしてクーボー博士と出会いにより学びを深め、イーハトーブ火山局の技師となります。
この一連の流れの中で描かれるグスコーブドリが非常に淡々としているのが印象的でした。
冷害による飢饉で悲嘆に暮れている両親を見ても、地震は悲嘆にくれることもなく妹ネリの世話をし、妹と生き別れたあとも探しながらも執着することはなく、農業を手伝えといわれれば手伝い、冷害で不作のため暇を出されても、一瞬涙を浮かべるもののすぐに次へと向かいます。
つまり、落ち込んでしまって何も手につかないという状態がない。
常に目の前に差し出されたものに対して「はい」と返事をして従っている感じでした。(スピリットに操縦を任せているというのはこんな感じ?)
そんなグスコーブドリですが、クーボー博士に「人の役に立つ仕事ならなんでもやります」と言って紹介してもらうのが最後の仕事である火山局の技師。
イーハトーブ火山局の技師となって有意義で楽しい時間ののち、「自己犠牲を過度に美化した内容である」という批判もされている結末を迎えます。
(原作では、結婚して幸せになっている生き別れた妹ネリとも再会し幸せな時間が描かれているようです。)
その結末は、300年の眠りから目覚めた火山の噴火を早めることで冷害に見舞われたイーハトーブを救うため、グスコーブドリが犠牲を払うというものなのですが、それを決行する前の火山局局長へのブドリの言葉に胸を打たれます。
「私のようなものはこれからたくさんできます
私よりもっと何でもできる人が
私よりもっと立派に美しく、仕事をしたり笑ったりしていくのです」
このシーンでを見て、「自己犠牲」というか、自らがすべきことする決意をし、死ぬ(肉体から離れる)覚悟をしたという風に感じた次第です。
グスコーブドリは、「自分に果たせるだろうか?」と一瞬不安にはなるものの、決行します。
その後、冷害は解消され、人々が笑いあう美しいイーハトーブの世界がありました。
冷害を食い止める対策としての火山を噴火させて二酸化炭素を増やして温室効果を利用した結末に関しては、Wikipediaで以下のように説明されていました。
冷害を止めるために火山噴火で二酸化炭素 (CO2) を増やそうとするくだりは、地球温暖化現象が大々的に問題視され始めた21世紀初頭には、温室効果のわかりやすい描写の例として紹介されることも多くなった。また、火山噴火ではそれに伴う火山灰などの噴出物によるエアロゾルでむしろ冷害が悪化するのではないかという意見もあるが、根本順吉(元気象庁予報官)や石黒耀(『死都日本』の著者)からは、賢治はそれも認識した上で(他の噴出物をほとんど伴わずに)CO2ガスを主に噴出するタイプの実在する火山を、念頭に置いて執筆したのではないかという指摘がなされている。
Wikipedia
集団的宇宙の進化まで世界を繰り広げていた“縦一筋男”宮沢賢治による童話「グスコーブドリの伝記」の世界に引き込まれた春分の頃です。
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