南方熊楠コレクション「森の思想」

３月に「南方熊楠と宮沢賢治　日本的スピリチュアリティの系譜」という本と一緒に購入していた本「森の思想」。
（こちらはkindle版がなく、文庫本だったのですが、久々に文字が小さく分厚めの文庫本を読みました～。）

密教にも通じていた南方熊楠が、どのように森の中に入った時に感じていたのかを掘り下げてみたく読んでみました。

南方熊楠は、生命の本質が立ち現れてくるのを人間が全身で知ることができる“自然森”を「秘密儀の場」と呼んだ。

巻頭には、粘菌の「色彩の魔術師」ぶりが垣間見れる色鮮やかな写真↓や、

粘菌の世界における「熊楠の見た宇宙」↓の写真が掲載されていました。

動物のような、植物のような、不思議な粘菌の世界は確かにまるで宇宙のようです。
（白黒の写真がまた、どこかの星の生命体を撮影したかのような雰囲気を醸し出しています。）

熊楠のいう「秘密儀な場」である自然森。

“森の樹木に包まれて、生命の秘密儀に向かって自分を開いているときにだけ、熊楠は実存の輝きを体験することができたのだ。”

と、書かれた箇所があるのですが、森に入り、ひたすら採集や観察に没頭している時間、熊楠は宇宙に存在する自らという存在を感じていたのだと思われます。

自然森は、大地に落ちたわずかな数の植物の種から、成長をとげてきた。しだいにそれは厚みを増し、植物の種類を増加させることによって、複雑さを増大させてきた。

その成長のすべてが、大筋では、自然の自発性にゆだねられてきたのだ。火災や災害に見舞われても、森はふたたび、みずからの自発性にしたがって、その全体の補修にとりかかろうとした。

そのために、自然森に生きる植物のすべてが、ひとつの「森の意志」に貫かれながら、たがいの間に本質的なつながりを持ち続けているように、感じさせるのだ。

ここは、生命のひとつの「会域」なのである。

ひとつひとつの生命が、みずからの生命システムとしての本質に立ち返って、この「会域」に集合し、たがいに会話を実現している。

森の思想 （河出文庫河出文庫　南方熊楠コレクション【全5巻】） [ 南方 熊楠 ]

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こういった密教の曼荼羅が表現する世界にもにた自然森の世界は、私たち日本人にとって身近なものであり、精神にも刻み込まれていたわけですが、時代の流れとともに生態的にも精神的にも破壊される流れとなり、熊楠が国策である神仏習合から森を守ろうと動くことになった理由でもあります。

森は自らが実存していることを体験できる場として、神道とも深い関わりを持つわけですが、これは先日読んだ森井先生の著書「神の国　日本の美しい神社」の内容ともリンクします。

森井先生も、神社参拝と自然の中に身を置くことは同じと書かれていましたが、熊楠が森に入り自らの実存を体験したということと同じだと思います。

熊楠は、神仏習合による森の破壊の危機に直面したわけですが、開墾や現代における土地開発など、森という聖域は長い間破壊の一途をたどってきているといえます。

「森の思想」を読んでいると、自然森が破壊されていくのと同時に、私たちの尊厳も傷つけられてきたというのを感じざるを得ませんでした。

フィンランドとスウェーデンに次いで、世界第３位の森林面積を森林大国である日本。

日本人は、森に入ることで生態系の一部、そして宇宙の一員であることを感じてきたのかもしれません。

そんな風に感じる一冊でした。